The party in the high castle

Energy Return on Investment (EROI)の減少、即ちエネルギー余剰の低減による文明崩壊論を基調モチーフとしつつ、地理、歴史、技術、制度、思想などについて考えます。

国家の論理と企業の論理Ⅱ 地経学時代、パワーとしての接続性

昨日のテーマの続き。

「中国の投資が増えている」「イギリスはやはり賢い」「日本はだからダメなんだ」と、国家を主語にするケースは多い。政府の動きを説明する時ならば違和感はないが、企業の投資動向、戦略動向を指すときもこういう言われ方をされるのは、少し不思議な感じがする。

 中国のように、企業幹部=政府幹部という構図なら、企業の動向=政府の動向とも言えるので、上の用法も問題ないかもしれない。だけど西欧的資本主義国では、企業はあくまで独立した存在であって、政府の判断とは無関係であることがほとんどだ。

 毎度エネルギーの話になってしまうが、エクソンは再エネ投資には比較的慎重、というかほとんどやっていないのではないだろうか。一方欧州系のシェル、スタトイル、トタールなどは、ホームである欧州において再エネへ積極的に投資している。このとき、「欧州は再エネに積極的、アメリカは化石燃料重視」といった言われ方をする時がある。

 冷静に見れば、欧州企業勢が再エネに積極的なのは、なんということはない、市場がすぐそこにあるからだ。なぜ市場(北海の洋上風力)があるかといえば、欧州政府が再エネに積極的だからだ。その理由はいろいろあるだろうが、気候変動対応のリーダーとしての矜持、ロシアガス依存への危機感、新産業創出による経済効果、といったところだろうか。一方アメリカはシェール革命のおかげで、化石燃料が盛り上がってしまった。カリフォルニアは例外的に、その意識の高さも相まってソーラーが盛んだが、米国全体として見れば、天然ガスの勢いがやはり強い。

 この事実を踏まえると、シェルが洋上風力に投資するのも、欧州政府の政策的誘導の結果だから、(自国内でなら)企業の投資動向も畢竟政府のコントロール下にある、といった見方も可能になる。そしてこの見方に立てば、企業動向を説明するのに主語を国家なり政府にするのもわかる気がする。仮にアメリカが脱化石燃料、再エネ導入を決定すれば、自ずと企業の投資もそちらに誘導されるだろう。やはり、市場の操作力というのは、厳然と存在するということだろう。

 ここで視点を変えてみる。欧州での動向を見ればシェル=再エネ重視のような書き方になったが、アニュアルレポートを見ればそんなことはないことに気づく。短中期には深海開発とLNG、シェール開発を重視するとある。話が違うではないか。

 要は、多国籍企業はそれぞれの市場動向に合わせているに過ぎない。欧州では、北海油田に変わり再エネの時代が来る、だからそこに投資する。ブラジルやメキシコでは法制変更に合わせガッツリ投資する。LNGも忘れない。シェールも。要は、コンピタンスに基づいて儲かることは全部やるのだ。それが多国籍企業だ。国家は自分の庭でのルールを定め、行動様式を決定することはできても、多国籍企業の全体戦略に影響を及ぼすことは、通常はできない。

 もちろん例外はある。経済制裁が極端な例だし、ソフトなところでも安全保障貿易管理というのがある。地政学的対立が企業戦略に影響する好例だ。ロシアによるウクライナ併合のあと、アメリカはロシアへのエネルギー技術・資金提供を禁じ、エクソンは大いに苦しめられた。エクソンのスタンスは「自由市場・透明な司法プロセス」だから、制裁には反対した。「国家のロジック」と「企業のロジック」がぶつかる瞬間だ。通常国家の方が強い。法律違反すれば経営陣は逮捕される。母国での経済活動を制限されれば、本業も傷つけられる。だから普通は皆従うのだ。ところが面白いケースがある。石油ショック時のBPだ。石油供給不安の中、イギリス首相はBPトップに、イギリスに優先的に石油を回すよう要請したが、BPは拒否した。理由は、もしそうすれば自社の信頼を失い、最悪では油田資産が接収される恐れがあったからだ。首相も納得したという。

 パラグ・カンナが『接続性の地政学』(原書房)で鋭くも指摘するように、現代国際社会において、国家の能力・パワーを決するのは接続性だ。それはつまり人の移動、投資関係、インフラの接続、エネルギー供給(血の同盟)、情報の交流といった、従来の「外交的同盟」「軍事同盟」より経済寄りの概念だ。経済寄りである以上、具体的な担い手は企業になる。つまり、国家と企業の相克は、現代で避けられない最重要テーマということになるだろう。

 日本政府が地政学的思考に基づき、バングラディシュに影響を及ぼしたいとする。それもODAといった「援助」より進んだ接続性が欲しい。よくあるのは、日本企業による投資だ。インフラ建設、工業団地、製造業進出、といったお題目が並ぶ。首相が企業団を引き連れて表敬訪問し、数々のMOUが結ばれる、というニュースはもはやテンプレ化してきた。この時国家と企業はwin win だ。企業はフロンティアを欲しているが、フロンティアはハイリスクだ。支援も、仲間も欲しい。政府が音頭を取れば、皆一気に進められるというわけだ。(事実、インフラ建設は多額の資金需要のためECAの支援が不可欠だし、案件組成の段階でG to Gが必要になる。政府を介さないインフラ輸出は事実上不可能なのだ)

 ではイランはどうか。INPEXのアサデガン油田の一件は有名だが、有望な市場でも、国家の都合によるお上の一声で撤退を余儀なくされるケースがある。この時国家と企業は明確に対立する。

 国家の視点に立てば、自国企業をいかにうまく使いこなしてパワーを強化するかが地政学・地経学的に重要だし、企業にして見れば、そうした国家の都合を利用しながら、収益を拡大していくことが求められる。愛憎入り乱れる関係性がここにある。

 

 最後に脱線。インフラ輸出はアベノミクスの柱の一つだし、国際政治でも、一帯一路に象徴されるような一大テーマとなった。パッケージ輸出(案件オーナーになりつつ箱物も作る)が日本の方針らしいが、個人的には限界があるように思う。案件オーナーとは畢竟カネの出し手であり、中国に勝てる余地が少ないからだ。現に欧米は案件オーナーの座はさっさと中国その他に渡し、中核システムでガッツリ稼いでいる。(発電システムのGE, Siemens, 鉄道のSiemens, Alstom, エネルギーでも、オペレーターは当該国NOCで、エンジニアリングはGE, Technip, Subsea7, SBMなど欧米勢が独占する)

 地政学(地経学)的影響力の行使という意味では、勿論カネを出した方が良い。スリランカの港湾も、借金が返済できなければ所有権が中国企業に移るといってもめていた。とはいえ、中核技術を抑えるのも同様に重要だろう。まず儲かるし、代替不能であることから、いざという時にはハードパワーに転化できる(米国の対ロシア制裁では、エンジニアリング企業は苦しんだが、そもそもそういう企業がいなければ、効果的な制裁すらできないのだ)。日本のインフラ輸出戦略は誰が決めているのか知らないが、パッケージにこだわり過ぎない柔軟性も必要ではないだろうか。(勿論、日本企業が世界一の技術を持っていることが大前提で、そちらの方が重要かつ困難なテーマだが。。)