The party in the high castle

遥かなる高みに聳える、アタラクシアの砦を目指して

中東狂騒曲

僕はイスラエルパレスチナに1ヶ月弱ほど滞在したことがあって、中東には今でも興味がある。政治学徒として、露骨な「パワーゲーム」が展開される中東は、「歴史」が常に生き生きと動いていて、知的好奇心をくすぐるのだ。

 ただし、そこで起きていることは血生臭い戦いであって、それを面白いというのは褒められてものではないだろう。しかし、やはり面白いものは面白いのだ。funnyではなくinterestingの方で。

 思うに、石油危機、湾岸戦争イラク戦争という激動(これを見ると、つくづく落ち着かない地域だと思う)を乗り越えて21世紀に入った中東だが、2010年代に入って「狂騒曲第一部」、すなわちアラブの春が勃発する。細かい経緯はすっ飛ばすとして、現代史的な文脈では、アラブの春の帰結としてはやはりシリア内戦という存在が際立っている。ロシア・イラン・アサド政権vsアメリカ・サウジ(湾岸)・反乱市民という構図は、一進一退を繰り返したが、ISというトリックスターの存在がアメリカに二正面作戦を強いたことで、結局アサドの勝利に終わったと見て良さそうだ。ちなみに国内政治という次元では反政府闘争、地域覇権闘争ではサウジ対イラン、グローバルレベルではアメリカ対ロシアという、三層構造で戦われた戦争だ。一時は、ロシアを痛めつけるためにアメリカとサウジが手を結び、サウジは苦難を受け入れて協調減産を拒否し、原油暴落を許した、とする論考さえ飛び交った。(真実は闇の中、機密解除されたら読んでみたい)

 そんな陰謀説はさておき、この内戦を第一部とするならば、今まさに第二部の火蓋が切って落とされようとしている。すなわち、クルド問題である。

 対IS作戦で血を流して戦ったクルド人は、陰に陽に、独立国という野心をくすぐられていたに違いない。ISに包囲された油田地帯キルクークも、彼らが命がけで解放したのだ。そうやって大国の意志に翻弄された悲哀の民族は今、その独立運動に対し徹底的抗議を受けている。トルコ、イラン、イラク、それぞれ軍の動員や経済制裁を示唆し、すでに国際空港は閉鎖される見込みだ。軍事衝突を含む、地域の不安定化は避けられまい。

 そんな中、独立を支持するのはイスラエルだ。敵対するイランに対する牽制の意味合いが強いとされる。かつて「民族の家建設」を約束されイギリスに協力し、結果裏切られたユダヤの民が、今、100年後に似た状況にある民族を支援する。その支援すら、真に相手のためなどではないだろう。中東では「善意」など存在しないかのようだ。

 この第二部がどう決着するかはわからない。ただしかなりのインパクトはあると思える。しかし、この狂騒曲には第三部がある。サウジアラビアだ。

 アラブの春との直接的因果関係を突き止めるのは難しいが、サウジの国家革新(ビジョン2030)の行方こそ、中東狂騒曲最終章にふさわしいクライマックスだろう。MBSムハンマド・ビン・サルマン)皇太子は直に国王になる。その勢いを維持し変革を終えるのか、その急進ぶりに対するバックラッシュが起こり、破綻が待っているのか。流動化の度合いを強める中東において、戦後レジームの基盤を支えたグローバル・オイル・ベースたるサウジがカオスに陥れば、それこそ新しい時代の始まりとなるだろう。