The party in the high castle

Energy Return on Investment (EROI)の減少、即ちエネルギー余剰の低減による文明崩壊論を基調モチーフとしつつ、地理、歴史、技術、制度、思想などについて考えます。

Fire is not dead. 『パリ協定で動き出す 再エネ大再編』井熊均・瀧口信一郎 日刊工業新聞社

エネルギー三大市場としてのEU、中国、アメリカは「ファイアー&ウィンド」すなわち石炭・天然ガスによる火力発電を中軸としつつ、2〜3割程度風力を中心とする再エネが占める、という構図が一般的になるだろう、という。技術的制約から再エネ一本になることはない、少なくとも系統連結を前提とする上では、というのが筆者の主張で、分散電源など系統のドラスティックなイノベーションがあれば話は変わるという。もっとも、それは近いうちに実現するとは思えないし、需要家の環境意識にかなり依存する点で、政治的リアリズムに立つ僕としてはちと夢想的すぎるように思える。ということで、Fire is not dead.ということらしい。

 EU、中国、アメリカというのはいわゆる来るべきポスト近代の「三大帝国」と合致するのは偶然でもなんでもなく、要はでかい市場と一致しているというだけ。「その他諸々」に入る中東アフリカ、南・東南アジア・中南米は「ファイアー&ソーラー」だったりと、バリエーションがありうるという。重要な点をざっくりまとめるとこんな感じ。

 ポイント別で面白いのは、再エネ時代=「地理の逆襲」ということ。僕は以前国力の要素について描いた時、「国土」や「資源」をまとめて「国土の質」としたが、これまでは資源が埋まっているかが重要だったけど、今後はこれに加えて風が吹くか、日照量が多いか、だだっ広い土地があるか、遠浅の大陸棚があるか、といった地理要素がエネルギー事情に作用する、ということになる。永遠に、地理からは逃れられないのだ。

 また、座礁資産として一部の意識高い連中からボロカスに言われていた火力発電も、死ぬどころかますます重要性が増す、もっというと、調整電源として送電網の一部としての性格を強めるというのは面白い。再エネ導入量と同じだけ、火力の調整が必要ということらしい。

 産業論という意味では、風力はタービン供給者の寡占が進み、中国勢の躍進がほぼ確実。オペレーターにはオイルメジャーが参入し、豊富な資金が流入するとみられる。ソーラーにおいては中国勢の一人勝ちで、パネル市場はチャイナ一色になる。日本はというと、火力の発電技術は高いものがあるし、電力会社も技術水準が高いから、風力はダメでも火力市場で存在感を示せるだろうとのこと。まあ、火力タービンではMHPSが頑張ってるし、JERAもできたし、ある意味電力分野で唯一期待できる領域かもしれない。引き続き日本勢には頑張っていただきたい。

 結局、再エネ100%には多分ならず、かなりの割合で火力が残るということは、一次エネルギー源としての化石燃料三銃士、石油石炭天然ガスの戦いはまだまだ終わらないということでもある。石油は電気自動車の登場に左右されるので毛色が違うが、石炭とガスは真っ向勝負だ。まだまだ石炭の優秀性は高く、ガスが石炭をリプレースするには時間も努力も必要だろう。シェール革命やFSRUは明らかに対石炭戦争の最前線にある。5年後以降、LNG需給がタイトになった暁には、FLNGが再びリングに舞い戻るだろう。

 これはつまり、日本の戦略的脆弱性は一向に解消されないということを意味する。再エネもだめ、石油天然ガスも依然海外頼りという状況は変化しそうにない。火力発電システムの国際市場で存在感を示すのは有効だが、そんなので足りるのだろうか。自国資源の開発を究極目標に掲げつつ、まずは世界の石油ガス市場で戦える産業群育成、中でも成長分野のオフショア産業確立が現実的かつ戦略的な方向性に思える。海外における資源開発における「貢献度」を高めることが、資源安定確保の要諦だからだ。ただ金を入れるだけでは(資金規模によるが)代替可能性がある。技術を提供するクラスターが存在すること、それが当該資源国にコミットすることで、実施的なタイが生まれ、供給安定性に資するのだ。実施的タイのないただの資金投入と権益確保は非常に脆弱だと思う。つまり、技術投入の伴わない「資源外交」は砂上の楼閣だというのが僕の仮説だ。

 とまあ、毎度のように話しが逸れたが、再エネの趨勢を冷静に分析した良書だと思う。