蘇るヒジャーズ:アラブーイスラエル鉄道計画

こんなニュースが飛び込んできた。

www.nikkei.com

 

「地経学」ど真ん中の、非常に刺激的なニュースである。イランの台頭が明らかになりつつある今、イスラエルは敵を一つに絞りつつある。毛沢東が言ったように、二正面作戦は敗北の布石であり、戦力の集中こそが勝利の鍵である。かのユダヤ国家がいかに熟練した戦略的国家であるかが伺える。

 僕が中東に釘付けだった3年前時点にも、実は地域内鉄道網の話は出ていた。アメリカのシンクタンク、ランド研究所がにたような提案をしていたのだ。

The Arc: A Formal Structure for a Palestinian State | RAND

この提案はイスラエルパレスチナ和平に鉄道網による広域経済圏の構築が貢献するという内容だった。日経によれば今回のプランは、すでに存在するイラク・サウジからペルシャ湾まで伸びる鉄道網に、ハイファから新設する路線を結合するというものらしい。アラブ世界まで鉄道網を伸ばそうという野心的なものだと思われるので、ランドの提案をさらに上回る規模感、しかもそれがイスラエル政府中枢から出てきたというから面白い。

 

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(地中海に面したハイファ。近年巨大天然ガス田が見つかり、エネルギー的にも目が離せない。この撮影場所はバーブ教の寺院。)

 

この美しき地中海の街、ハイファから延びる鉄道という意味では、その昔、アラブ世界の動乱の主たる舞台を提供した熱砂のヒジャーズ鉄道を彷彿させる。地中海とペルシャ湾を結ぶにはスエズ運河を経由する必要があるが、ハイファからペルシャ湾まで結べばその手間が省ける。地理的なインパクトは非常に大きいだろう。

 経済圏を作り上げれば人やモノの移動が活発になり、政治的接近の布石となる。地政学的目的のために経済活動を展開するという、地経学そのものである。パラグカンナのいう、「接続性の地政学」が、目の前で展開されようとしている。面白い!!!

 もっとも、僕が勝手に「地経学のジレンマ」と呼ぶ障壁は存在する。すなわち、地政学インパクトを用いうる大規模経済開発事業は、実は地政学的友好関係がないとそもそも成立しないのだ。確かに、鉄道による経済圏の中でまとまれば、イスラエルとアラブ世界は接近する。だが、鉄道建設という事業の推進は、間違いなく、イスラエルとアラブ世界の政治的紐帯を前提にする。しかし儚く崩れ去る政治合意と異なり、物理的な絆となる鉄道や道路といったインフラは、実質的な経済関係を通じて友好関係を固定化する効果がある。両者は車の両輪なのだ。

 もちろん一筋縄にはいかないだろう。イスラエル内部でも右派は計画に反対するだろうし、アラブ世界でも同様だ。政治人生を賭ける強力なリーダーが双方に求められる。