The party in the high castle

遥かなる高みに聳える、アタラクシアの砦を目指して

沸騰するルブアルハリ

 サウジアラビアが超ホットである。外部要因としてイエメンからのミサイル攻撃と撃墜、レバノンによる宣戦布告(とサウジが勝手に言っているもの)、内部要因としては王族ら超有力者の急激な粛清、そしてウラン濃縮ニュースまで飛び出している。ぬるま湯に浸かってきた「温室王国」が、急に灼熱の沸騰釜と化している。

 この王国の改革はマッキンゼーが絡んでいるくらいで、そもそも民主主義でもないので、企業経営の視点で見ることもアリかと思うが、その意味で、サウジの固定費は王族の生活費なので、王族を次々パージするのはある意味「リストラ」として筋が通っている。三枝匡の経営本など読むと、企業の急進的改革は強大なスポンサーの後ろ盾の元、腹の据わったリーダーが命運をかけて挑む必要がある、と書かれているが、サルマン国王の元でMbSが爆走するというのは、ある意味勝ちパターンなのかもしれない。問題は、リストラされる対象がそこら辺のサラリーマンではなく、地球上で最も裕福な部類に入る「王族」であるという点だ。僕自身は2014年に油価が暴落してから、2020までにサウジ内政はメルトダウン(=原油爆上げ)という考えを数年来持っているし、今でもメルトダウンは近いと思っているが、もしかするともしかして、改革が成功する可能性も3割くらいある気がしている。

 7割で失敗すると考える理由は、王族によるバックラッシュももちろんだが、中東の地政学が大きい。中東の主要プレイヤーはサウジ、イラン、イスラエル、そして外部の大国としてアメリカ、ロシア、ちょこっと中国といった感じだと思うが、サウジの改革はやはりイランに相当翻弄されると思われる。イランからのあの手この手の介入は、対応する軍事費や政治的資源の浪費を促し、国内政治への集中を困難にする。社内の急激リストラをしている最中に、敵対的買収をかけられるようなものだ。こんなのは、まず持って対応できないだろう。現に、シリア、レバノンヒズボラ)、イエメンはイラン枢軸として影響力をますます高めている。イランは否定しているが、イエメンからのミサイル技術にはイランの影がちらつく。サウジはアメリカの後ろ盾はあるものの、シェール革命による石油依存度低下を経た米国は、10年前に比べ、サウジを守る必然性はあまりない。今トランプ政権がサウジにラブコールを送るのは、トランプ大統領の個人的なイラン嫌いによるものが大きく、米国の戦略的利益を突き詰めた対応とはあまり思えない。イラン市場を開放すれば、ボーイングは沢山飛行機を売れるのだ!

 さらに言うと、中東における盟主は、モーゲンソーの国力の視点から見れば、どう考えてもイランである。現にアメリカはイランを地域大国として据えたがイラン革命で失敗し、代わりにサウジを支援してカウンターした。イラン革命でひどい目にあったからといって、外交もずっと断絶してしまうのは、ちと神経質ではないか、と思えなくもない。イランには優れた文化も、資源も、人口も市場もある。何より民主主義が根付いている。(僕は民主主義信者ではない、が、石打ちや鞭打ちをする王国より親近感は持てる)私見だが、国際社会はイランを受け入れ、中東の盟主として歓迎すべきだろう。(イスラエルは黙っていないだろうが。。)

 トランプ政権が強硬な姿勢で核合意を破棄すればイランの本当の核開発リスクは高まる。するとイスラエルによる先制攻撃が起こる(=戦争が勃発する)、サウジの核武装が現実化する、部分的な国家崩壊とテロリストへの核物質拡散、といった地獄絵図が簡単にイメージできる。是非とも核合意を維持し、市場を解放させ、「接続性」を構築し、ペルシャの栄光を再び拝みたいものだ。アラブの帝国後は、ペルシャの帝国になる。これは歴史的転換(回帰)である。

 それから、アラムコIPOの件もある。これだけ急激な粛清をする独裁国家に、安心して投資できるだろうか。著名投資家でもある王族がホテルに監禁され、噂では床で寝ているといった状況を見るにつけ、投資先としてのサウジはちとハイリスクすぎる気もする。

 結局、サウジアラビア戦後レジーム、米国主導のリベラルオーダーにおける世界のガソリンタンクに過ぎなかったのであり、アメリカの衰退や保護主義の高まりにより戦後レジームが転換すれば、必然的に役割が変わる。石油は依然として重要だし貴重だが、世界はもはやサウジだけに頼ってはいない。南北アメリカは近く原油の自給を達成するだろうし、アフリカ欧州も同様だ。原油のような重要物資は、多少のプレミアムなら支払って自給するのが政治的に正しい選択だ、少なくともそう言う意見が重みを持つ時代になりつつある。すると中東に依然として依存するのは、自給が地質的に困難なアジアだけなのだ。サウジは「世界の」ガソリンタンクから「中華の」ガソリンタンクに格下げされる。それは今までように華やかなものではない。その姿は世界経済の中心などではなく、中華の辺境、有用なる夷狄に堕すであろう。