アラブvsユダヤの終わり

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イスラエルとアラブは因縁の仲、と言うことで我々は長らく学校で教わってきたわけだが、イスラエルの第一の敵はイランで、これは多分昔からそう。パレスチナとの戦いはあるかもしれんが、イスラエルが圧倒的優位であって、必ずしも「脅威」ではない。技術、国力からして本当に怖いのはイランであるわけで、北方のならず者、ヒズボラもイランの出先機関であるわけです。

 サウジはパラノイア的にイランを敵視し、過剰反応を繰り広げているが、流石はイスラエル、この機会を逃すことはしない。国交が無いのに、とはいっても非公式なネットワークはあるはずだが、掲載記事の通り連携を呼びかけている。サウジは「同胞民族」としてのパレスチナ人を守るとかいっているが、そんなのは表層で、混乱の本質は中東の覇権をめぐるイランとの地政学ゲームであり、そこに複雑に宗派が絡み合っている、これこそ中東狂想曲の主軸プロットであって、自分らの「盟主」たるサウジがこうも簡単にユダヤ人と手を組むとなれば、これを聞いたパレスチナはどう思うのか。もっとも、サウジはまだ返事をしていないが、ネガティブな答えは出さないだろう。

 このように中東は世界でも珍しいくらいに近代的、19世紀的だ。中国やロシアの動きも19世紀的な部分があるかもしれないが、中東に比べればだいぶん20世紀的、つまりは経済相互依存を前提とした「紳士的」さがある。すなわちすぐにミサイルを撃つような激しさの代わりに、通商交渉やプロパガンダ、人権問題、多種多様な政治経済アジェンダを組み合わせた総合格闘技(直接殴りはしないが)を巧妙に遂行している。中東だけはロンドンイーストエンドの酒場よろしく腕力がモノを言う。(ゆえに中東は圧倒的にinteresting to watchな訳です)

 ところで、中東はこんなに刺激と危険に満ちているのに、そこに石油という基幹資源を依存する世界文明はやたらと呑気では無いか。確かにISISが台頭したにもかかわらず中東の石油生産は落ちるどころか、価格維持のため減産するくらいだ。サウジの油田も極めて重厚に警備されているだろう。だがイエメンからミサイルが空港上空まで到達し、さらに油田地帯であるサウジ東部はシーア派の牙城となれば、誰が油断できるだろうか。

 中途半端に原油需要が減り価格低迷が続けば、コスト高な生産者、生産地域は衰退する。それは世界の中東依存度上昇を意味する。つまりは供給リスクの増大を意味する。気候変動のための脱石油は意義ある取り組みだと思うが、ソフトランディングのための方策も忘れてはならない。つまりは石油ガス生産のさらなる最適化、産地多様化、あるいは原子力の有効活用だ。原子力も、石油も石炭も天然ガスも、もちろん太陽光も風力も、方法は多ければ多いほど良い。どれかを褒めそやしどれかを否定するような態度は、控えめにいっても愚かという他ないだろう。