FEWS地政学論

以前、「戦略資源と安全保障」というエントリーでは、安全保障問題を三つのレイヤーで考えた。生存財=必須資源=FEWSの分布と、その取引、そして危機管理である。

 今回は、このフレームに少し変化を加えたいと思う。

  1. Tier1: VG(FEWS+T)分布。これは以前と変わらず。食料、エネルギー、水、シェルター(治安国防防災防疫)と、それらを入手可能ならしめるenablerとしてのTechnology(これは管理技術や広いノウハウも含む広義のそれ)。FEWSをVR: Vital Resourceと呼びTechnologyにもVitalという形容詞を付け、VTとする。FEWS各分野に紐つく形で、例えば食料技術であればF-VTと呼ぶことにする。VRとVTを合わせてVG: Votal Goodsと呼んだ。シェルターはもっぱら軍事資源を意図しているのだれど、昨今のコロナ危機を見て、医療や防疫もこの領域に含めて良いなと感じているところ。このシェルターというのは、建設や資源開発の世界で一般的な HSSE (Health, Safety, Security and Environment)という概念に近いかもしれない。健康や安全を保つための各種資源ということ。VRは自然資源であって地理的制約で分布が決定されるが、VTは人間の知恵やノウハウであるから、こちらは人間の努力次第でどうにでもなる。その担い手はいわゆる当該分野の「プロフェッショナル」(食料であれば、研究者や農業実務家、エネルギーであれば研究者や開発従事者、等々)であり、その職業倫理が導くところの内発的動機、そして経済的利益という実利的動機、さらには以下で見るようなTier2,3の政治的介入により、その分布をダイナミックに変動させることになる。
  2. Tier 2:VG生成戦略。ここが前回と少し違う。国際関係・地政学の本質を各国同士のVG確保を目的とする競争的ゲームと定義するならば、「交換」の前に、自分のカードをいかに生成するかという要素が来るべきと考えたので、この要素を追加した。例えば、潜在的石油資源を抱えるのに国内政治や制度の束縛により開発ができていない国が、内政方針を変更して規制緩和外資導入を図って開発促進をするといった話は、このTier2に該当すると言えよう。あるいは、上述の文脈で、外資解放しすぎると国内に技術(=VT)が残らず国益を損なうから、一定程度のLocal Contentsを義務付けるべし、という政治的議論も、またTier2の範疇である。国内のVG資源をどう生成するか、という視点で国家が市場介入するということであるから、主体は専ら政府であり、その方法は規制と補助金である。これは外交戦略というより経済戦略、技術戦略などと呼ばれる領域であって、対応する省庁も、農務省、エネルギー省、環境保護庁、国防省など、それぞれの専門分野に対応する形で多岐に渡ることになろう。
  3. Tier3: VG交換戦略:前回までTier2にしていた要素が3に来て、危機管理は外した。Tier1,2で定義されたVGの手札を持って、他国の状況を睨みつつ、最適な交換取引戦略を考案実行していく。

 

Tier1の主体は民間のプロフェッショナル(一部、軍人等も含むので全て民間ではないが)であってその動機は多様である(その分野で名を挙げたいとか、人に貢献したいとか、単にお金持ちになりたいとか)一方で、主体が政府となるTier2,3で目指されるのはその共同体のFEWSの確保である。これは生存財であって共同体の必須不可欠な要素だから。例えば国内に食料やエネルギー資源を欠き、自給化がほぼ不可能ということであれば、Tier2において他国とTradableなVGを生成するように努力しつつ、それを材料としてTier3において取引を実行することになる。無資源の技術先進国が獲得しやすいVGは軍事技術(S-VT)であるが、日本やドイツのように、歴史的背景を引きずる国はそれも難しいだろう。だが、何らか見つけていく他ないのだと思う。

 

ところで戦争というのは、このFEWS獲得が思うように行かず、もはや武力による奪取しか術がない状況に追い込まれた共同体が生じることが原因だと思われる。少なくとも近代以降の戦争はそのコストが非常に大きいので、平和的に取り引きで獲得できるものを、あえて戦争で獲得する合理的動機はなさそうであるから、20世紀以降の大きな戦争の背景には、やはり武力に訴えでもしないとFEWS確保に支障が生じうると言う恐怖が生じていたと思われる。VRが地理的制約ゆえにその偏在性を克服できない以上、望みがかかるのはVTの拡散であろう。(もちろん、Tier2,3の懸命な戦略が重要なのは言うまでもない。が、それは畢竟「取り合い」の競争的戦略であるから、VGが決定的に不足する中では、その帰結は弱肉強食の闘争でしかないのも事実であろう)

 

私はエネルギー開発の世界において、E-VTの改善と拡散に一役買いたいと思うところである。これが私の善の指針となっている。