地経学時代の戦略ツール:Engineering Vessel

 必須戦略資源という文脈において、資源の確保や外交レバレッジの発揮のためは、単なる投融資ではなくVital Technology: VTの供与が重要であるというのが本ブログでの一貫した仮説である。ではVTの提供が具体的にどのようになされるのか、という点を考えてみたい。

 ここでは、「Engineering Vessel:EV」という概念を提唱する。すなわち当該分野におけるエンジニアリング:設計、調達、建造、投資、運営を一気通貫で担うことができる開発事業の「中核プレイヤー」のことを指す。ベッセルというのは船なり乗り物なりを意味するが、つまり同乗者がいることを暗示しており、それが総合商社をはじめとするプロジェクトのEquity PartnerそしてJBICに代表される政府系金融機関である。例えば石油開発事業において、中核的プラントのEVをコアとして、顧客に対して生産サービスを提供しつつ、サプライヤーや出資パートナー、政府系金融といった日系事業者がEVの周辺を取り囲む構図がありうる。石油やガス開発でオペレーターを担える企業があれば、それは疑いようなくEVである。電力や鉄道でも全く同じ構図が適用できるはずである(その場合電力会社・鉄道会社がEVとなる)。日本のインフラ輸出界は長らく商社がオーガナイズしてテクノロジー保持者(電力会社や鉄道会社)がそこに付着する構図だったかに見えるが、テクノロジーを持たない商社はEV足り得ない(テクノロジーは人材に宿るので、持とうとすればエンジニアを多数雇用しエンジ会社化する必要が生じるが、そこまでのリスクを取らずともEVやプロジェクトに比較的有利な条件で出資できさえすれば利益確保の点から見て不自由はない)。英語や国際取引に躊躇しない国際人材が商社に偏っていたのが問題の本質であるかに見えるが、今後は徐々に解消されていくであろう。

 FEWS分野でいかに多くのEVを国内に持つことができるか、そしてそこに安定的に人材を供給できる教育エコシステムが構築できるかが、地経学時代の優位性のカギを握ると思われる。資源国にVTを輸出し生産システムを自国に依存させることこそが、資源輸入国の戦略的脆弱性を解消する最高の戦略と言えるはずだからだ。その資源分野がCriticalであるほど、当該資源の輸入という単一イシューを超えて、軍事や外交をも含めた総合的な外交交渉力に転化していくのである。