The party in the high castle

Energy Return on Investment (EROI)の減少、即ちエネルギー余剰の低減による文明崩壊論を基調モチーフとしつつ、地理、歴史、技術、制度、思想などについて考えます。

『TPP亡国論』中野剛志

中野さんの本は『グローバリズム その先の悲劇に備えよ』に続いて。TPPについては学生時代、北京大・ソウル大・復旦大・台湾大と東大で議論する機会があったんだけど、「まー推進っしょ〜」みたいなノリで見ていた部分があったので、いざ振り返ってみると新鮮。ま、TPPはほぼ死んじゃったけど。。

 この本で一番面白かったのは、「貿易関係におけるパワー」の話、ここ最近のマイブームである「パワーとしての接続性」とドンピシャにハマった。曰く、車を売って穀物を買う貿易は、「互恵」などではない。戦略=相手に対する優位性確保の方法論という文脈では、必需性の高い穀物を買い、贅沢品を売る貿易など「負け戦」なのだ。結局、必需性の高い取引における自分の唯一性・希少性こそがパワーの源泉なのだ。今の日本は、果たしてパワーを発揮できているだろうか。インフラ輸出と言うが、圧倒的な技術・製品をどれだけ持っている?高速鉄道も、中国との安値競争の末、相手国に「買っていただいている」ケースがあるだろう。つまり、取引における関係性は脆弱だ。

 もう一つ、日本は必需資源がないため、肝は自由貿易を推進して供給の多様化を測ること、と言う議論への筆者の反論も面白い。実は僕はこれに近い考えを従来持っていて、チャーチルが言ったとされる「多様な供給こそがエネルギーの安全を保障する」と言う言葉が大好きだった。が、筆者によれば、食料に限定すれば、水資源の逼迫によりどの国も生産に余裕がなくなることが想定されるので、いくら多様化してもしょうがない、と言う。エネルギーは一見供給過多だが、EPRの議論を持ち出せば、すぐに安心できないことがわかる。ここでも、必需資源は国産化するか、次善の策として、相手国と「互恵的貿易関係」を気づく必要があるとわかる。例えば、日本の世界最先端の技術によってしか生産できない資源を、日本の支援で生産してやる見返りに、資源の一部を売ってもらう、と言う関係がそれに当たるだろう(そんなものあるかと言うツッコミは置いておいて)。技術のある石油会社やエンジニアリング会社が開発事業の中枢を担い、プロジェクトの成功に貢献することがやはり重要で、ただ権益にお金を入れるだけでは、それこそ「お金を出させていただいている」状態になりかねない。まさに負け戦としてのインフラ輸出と同じ構図だ。あなたじゃなきゃダメなんです、投資してください、参加してください、そう言われる企業・産業を持てているかが戦略的貿易関係におけるキーとなるだろう。もちろん、国産化できるのが理想ではあるが。。当面国産化は無理なので、農業・エネルギー・水資源管理といった領域での技術力を磨くことが国家戦略の中心になると思う。エネルギーで言えば、LNG技術は立派な企業がいるので、あとはオフショア分野だろうか。日本近海資源開発を見据えても、オフショアの技術育成は戦略の柱であるべきでしょう。

 と、結局好きな話題へ無理やり広げてしまったが、楽しく読めました。筆者が経産官僚(京大に出向のち経産省帰任)と言うのはだいぶびっくり。経産省の懐の深さはすごい。