The party in the high castle

Energy Return on Investment (EROI)の減少、即ちエネルギー余剰の低減による文明崩壊論を基調モチーフとしつつ、地理、歴史、技術、制度、思想などについて考えます。

ジャック・アタリ『海の歴史』

 この前買った本もまだ読み終わっていないから、本屋には行ってはいけない。衝動買いで積ん読が増えてしまうから。そう思いながらもふらっと丸善に吸い込まれぶらぶらしていると、案の定、その美しい表紙と魅力的なタイトルが、海の魔物セイレーンの如く誘惑していたので結局買ってしまった。

 ジャックアタリは言わずと知れたフランスの大御所知識人。未来予測系の本をよく書いているが、アプローチは文明論の王道といったところ。今回は海を中心に据えて宇宙開闢から近未来までを雄弁に描いている。

 海を主人公にした本で最近読んだのは、ジェイムズ・スタヴリデス『海の地政学』。NATO総司令官まで務めた米国海軍軍人の手になるこの本も、7つの海を舞台に繰り広げられた歴史上の海戦に焦点を当てながら世界史を概観する。とはいえこちらは海軍軍人の視点+国際政治、といった領域に限定されていたが、アタリの方はというともう少し視点が広い。同じフランスの偉人、ブローデルの『地中海』あるいはマクニール『ヴェネチア』に通じる。本ブログでも度々言及しているパラグ・カンナ『接続性の地政学』にも近い。

 人類の世界史を海と陸の対立で捉えるというのは伝統的地政学の発想に他ならず特に新規性はない。ただし地政学という文脈を超えて経済や文化まで含めて語ているという意味では新規性を感じる。海は自由というイデオロギーの支柱である、という主張は、「海洋ロマン」を文学や映画を通じて表現してきた勢力は皆、歴史上の勝者であった事実を見れば実に興味深い。海を制すものが有利であるなら、そこには人々を海に駆り立てるような文化・思想があったということだ。その点、日本はどうだろうか?島国ではあるが、外洋に出てロマンを追うという文化的モチーフはあまり存在しないように思う。残念ながら。

 海は文化の基盤であり、食料とエネルギーの産地であり、新しい遺伝子資源といったバイオ資産に富み、海洋機能は気候維持にとって極めて重要だ。海を知り、海を守りながら上手に利用できる勢力、「海洋文明力」が未来のキーワードだ、という。強く賛成する。海洋環境の汚染速度は極めて早く、その保全の枠組みは心もとない。思想・制度・技術それぞれにおいて、持続可能な海洋文明の構築が喫緊の課題ということだ。これは今後も考えていきたい。