VTの4要素(FEWS地政学論補記)

Vital Technology、すなわちFEWS生産に関連する各種テクノロジーであるが、VTももっと深掘りして分析できると思った。

VT = (Transportation + Energy + Communication )× Integration 

といったところだろうか。輸送、エネルギー、通信というのは現代の機械文明における基本要素とも思われるところ、結局現代社会でFEWSを生産するのに必要なテクノロジーというのもこの3要素に収斂すると思われる。これら要素技術を束ねて全体のintegrityを保ち、使いこなすノウハウも勿論重要であり、それはintegrationと呼ぶことにする。

 

例えば軍事力に関するVTであれば、核弾頭は核エネルギー技術、ミサイルはロケットという輸送技術、自律型無人機は航空という輸送技術と通信技術の結晶である。それらテクノロジーを全体として束ね、目標達成に昇華するマネジメントノウハウこそが優れた軍隊のcapabilityであり、それがintegartionである。

 

軍事に限らず、食料、水資源、エネルギーといったFEWS全てに関して上記が当てはまる。深海から石油を掘るにあたっては、船舶工学(輸送技術)に基づく船体型ドリルシップや生産プラットフォームを使用し、海底工事には無人潜水艦(ドローン)という輸送技術及び通信技術が用いられる。洋上におけるエネルギー供給にはガスタービンや、最近では風車といったエネルギー技術が用いられる。これら各種テクノロジーを駆使してエネルギーという成果物を生産するノウハウが、石油会社やエンジニアリング会社のintegration力であり、付加価値の本質である。

 

技術と安全保障の議論の文脈でしばしば登場するdual use=軍民両用と言うのは、上記を踏まえればむしろ当たり前のことである。テクノロジーのコアをなす領域(ここでは、TECの三つ)は全て共通であって、それをどのようにintegrationしていくかによって、成果物(FEWS、あるいは全く別の何か、例えばエンタメなど)が異なると言うだけである。

 

ところで、いわゆる資源国(VR保持国)は、それ自体で交渉力があるのかと言うと、微妙なのかもしれない。資源はそれ自体ではただの無価値な物質であって、そこにVTを加えることで初めて経済的軍事的な価値を持つのである。VTの一切を他国に依存する資源国は、そのVTの成果物たる資源を交渉のカードにすることは難しいだろう。そうしてみたところで(=この資源を提供するから他のVRを下さい、換言すると、そのVRをくれないならこの資源をあげませんよと言う脅し)、VT提供の遮断を示唆されるのがオチであり、仮にそうなれば、頼みの綱である資源それ自体が生産できないのだから。ゆえに、資源国の多くが自国の産業育成、技術発展すなわちVT獲得に躍起になるのは全く正しい政策なのである。然もなくば、植民地時代よろしく搾取されてしまうであろう。

 

現状では食料と水の不足感がそこまで存在しないことから、中期的にはエネルギーと軍事がFEWSの中でも焦点になるだろう。日本においては両分野に係るVTをいかに形成していくか、そして海外市場で勝っていくかと言うことが、安全保障の要になると思われる。サイバー(通信)やドローン(輸送)が次世代の肝であるが、日本が勝ちうる分野はまだあるだろうか。宇宙と海洋という地理的なフロンティアにおけるそれだろうか。広大な海洋領域を抱える島国としては、海洋のVTに個人的には期待をかけている。海は(歴史上一貫して)軍事的競争の主たる舞台であると同時に、次世代のエネルギー産地でもあるからだ。洋上風力や海底鉱物といったVRは一応存在するわけであり、その開発に係るVTを磨いていくことが重要だろう。それはそのまま、軍事のVTにもなるのである(dual use)。Shell Xprizeで、JAMSTEC主導の日本チームが2位の功績を残したのは希望の光であろう。